ジェレミー・シーゲル先生による希代の名著『株式投資の未来』には、フィリップモリスが20世紀の後半に最も優れたリターンを示したことが説明されています。
具体的には
ぬぁんと年率19.75%!(1957~2003、配当込み)
ものリターンを叩き出しています。
これほど凄まじいリターンを実現できた理由は、タバコがもたらす健康被害をめぐる訴訟で莫大な賠償金を課されために株価が低迷する一方で、業績は堅調であったために、その時期にフィリップモリス株を買い続けた株主は株数を大きく増やし、賠償負担が減額された後の株価上昇で
株式数 X 株価
の掛け算の株式数の項が大きかったために、目覚ましい資産増加につながったというわけですね。
とはいえ、その後も規制当局からの締め付けは続いています。中でも米国のFDAによる規制については、アルトリアやその他の米国で事業を展開しているタバコ会社に投資している米国株投資家さんにとっては気になるところでしょう。
このような状況で、米国のタバコ産業は今後どうなっていくのでしょうか? それを知るためには、FDAがどのようなスタンスでタバコの規制に取り組んでいくつもりなのかを確認すべきです。
そこで、今回の記事ではFDAのタバコに関するプレスリリースを見ることにしたいと思います。
米国タバコ産業に対してのFDAのスタンスをプレスリリースから読み解いてみよう!
FDAは下図のように、タバコとニコチンについて包括的なプランを立てて規制を推進しています。
この図では、2017年7月のアナウンスメントからこの包括的なプランがスタートしていることがわかりますので、そのアナウンスメントを見るのが良いと思われます。
調べてみると、以下のプレスリリースが2017年7月28日に出されていましたので、これを見ていきましょう。
(以下、チョー適当に意訳していますので、ご了解を。)
The U.S. Food and Drug Administration today announced a new comprehensive plan for tobacco and nicotine regulation that will serve as a multi-year roadmap to better protect kids and significantly reduce tobacco-related disease and death.
つまり、『FDAは、青少年をタバコから守るために、またタバコによる疾病や病死を減らすために、タバコとニコチンの規制のための包括的なプランをここに宣言し、何年かかってもやり遂げる』と言っているわけです。
では、米国におけるタバコの害はというと、
Tobacco use remains the leading cause of preventable disease and death in the United States, causing more than 480,000 deaths every single year. In addition to the devastating human toll caused mainly by cigarette smoking, tobacco also causes substantial financial costs to society, with direct health care and lost productivity costs totaling nearly $300 billion a year.
『タバコにより引き起こされる病気により毎年48万人以上が亡くなり、またタバコによって健康を害した人へのヘルスケアの負担額は毎年300億ドル(日本円で3兆円以上)になる』と言っています。
ここまで公衆衛生にダメージを与えているとなると、規制当局としては手をこまねいているわけにはいかず、
The approach places nicotine, and the issue of addiction, at the center of the agency’s tobacco regulation efforts.
『ニコチンとそれが引き起こす依存を問題解決の鍵として取り組んでいく』と決意を示すとともに、
Envisioning a world where cigarettes would no longer create or sustain addiction, and where adults who still need or want nicotine could get it from alternative and less harmful sources, needs to be the cornerstone of our efforts – and we believe it’s vital that we pursue this common ground.
『タバコが習慣性を生じないようにする、またニコチンがどうしても必要な大人がより害の少ない形でそれを取れるようにする、そんな世の中を目指すべきだ』と述べています。
ただ、『ニコチンを必要とする,あるいは欲する大人』という表現があって、『あれ? タバコを何とかしなければいけないとFDAは言っているのに、ちょっと後ろ向きな表現じゃない?』という気がします。
とはいえ、
The FDA is committed to encouraging innovations that have the potential to make a notable public health difference and inform policies and efforts that will best protect kids and help smokers quit cigarettes.
『公衆衛生に明らかな差を生じるような、そしてFDAのポリシーと努力を広く知らしめて青少年を喫煙から守り、かつ喫煙者の禁煙を手助けするようなイノベーションを奨励することにコミットする』とFDAは述べており、加えて色々な方策を示しています(その方策は省略します)。
そんなこんなで、タバコ会社には厳しい文言がずらりとならんでいますが、よーく見ると以下のような一文があります。
FDA is striking an appropriate balance between regulation and encouraging development of innovative tobacco products that may be less dangerous than cigarettes
つまり、『FDAとしてはタバコについて規制を行う一方で、タバコ産業にはタバコよりも有害性の少ないタバコ関連製品開発を奨励すべく、バランスのとれた法律整備を行っていく意向である』としており、
タバコ産業との共存を図っていく!
姿勢が示されています。
同時に、こんな一文も記載されており
The agency also will continue efforts to assist industry in complying with federal tobacco regulations through online information, meetings, webinars and guidance documents.
『タバコ規制に業界が対応できるように手助けしていきます』と言っているわけですね。
以上述べてきたように、FDAはタバコに対して厳しいスタンスを示しつつも、業界に対しては配慮しながら規制を推進する心づもりのようです。
『まとめ』らしきもの
今回FDAのプレスリリースを読んでみて、
禁酒法でしくじった国らしい対応だな・・・
と思いました。
どう考えてもタバコは害悪にしかならないのですから、とっとと禁止してしまうという手もあるでしょうが、そんなことをしたらタバコがヤミで取引されて反社会的勢力の資金源になることは目に見えています。禁酒法の時と同じですね。
このように、同様な手を打った禁酒法の失敗の経験があるために、産業界や喫煙者にも配慮して少しづつ改革を進めていこうとしているのでしょう。
ですから、今すぐ米国のたばこ産業が傾くということは無いと思われます。
ただし、『FDA’s Comprehensive Plan for Tobacco and Nicotine Regulation』というFDAの別のページには、
The agency extended timelines to submit tobacco product review applications for deemed regulated products that were on the market as of August 8, 2016. ・・・(中略)・・・
- Applications to market deemed regulated combustible products, such as cigars, pipe tobacco, and hookah tobacco, must now be submitted by August 8, 2021.
- Applications to market deemed regulated non-combustible products, such as electronic nicotine delivery systems (ENDS) or e-cigarettes, must now be submitted by August 8, 2022.
つまり、2016年8月8日時点で販売されている規制対象となるタバコ製品について、火を使うタバコについては2021年8月8日までに、火を使わないタバコに関しては2022年8月8日までに、それぞれFDAにレビューを申請しなさいよ、と命じています。
で、レビュー結果で駄目出しされたら・・・わかりますね?
実は、これは当初の予定よりも期間延長しており、それによってFDAも産業界もより検討を行う時間が与えられることとなりますが、それでも残すところ2~3年です。
これらの期限を迎える時、どんなことになっているのでしょうか? 株価はその予見性をもって、米国タバコ産業界の行く末を
炭鉱のカナリア!
のごとく事前に指し示してくれるのでしょうか?
答え合わせは多分2年後に!
でわ。
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