大学生の娘のための株式投資講座(4):お金の代わりになるものは?

さて、『大学生の娘のための株式投資講座(2):よーく考えよう、お金は大事だよ!①』を読んだ娘からラインが送られてきました。

・・・との質問をもらったので、今回はこのネタで。

講義開始!

 

娘よ

 

今日はお主の求めに応じて、お金の代わりになるものについて説明しようぞ。価値交換手段と価値保存手段のうち、ここでは価値保存手段を主たる対象として説明する。

 

お金の代わりになり得るもの

 

まずは、お金の代わりになるものについて教科書的に説明しようかの。以下のように色々なものがあるが、その良し悪しも含めて説明しようぞ。

 

有価証券

いきなり難しい言葉が出てきたが、これは『ゆうかしょうけん』と読む。文字通り理解すると『価値のあることが保証された券』ということじゃ。

より正確に言うと『財産的価値のある私権を表章する証券』なんじゃが、これでは説明が難しすぎるので、実例で説明したほうがよかろう。

具体的には、国債や地方債といった債券・各種手形・株券といったものじゃ。なお図書券や商品券も有価証券に分類される。

これらは、大きく2つの目的で用いられる。

一つはお金を集めるためじゃ。例えば、国債や地方債は、国や地方が借金をする際にその代わりにお金を貸してくれた人や団体に渡すものじゃ。株券は、会社がお金を必要とする際に発行して、お金を出してくれた人に配るものじゃ。

もう一つの目的は、お金の代わりに支払いをするものじゃ。手形がそうなんじゃが、商売でお金のやり取りが必要な場合、例えば何億円というお金を持ち運ぶのは大変じゃ。その代わりに手形を使えば、紙切れ一枚ですむ。図書券や商品券も、お金の代わりに支払うという意味では手形と同じじゃ

これらのものは、基本的に好きな時に売り買いできる(これを『換金性に優れる』という)。したがって、価値交換手段としては十分お金の代用となりうる。

これらの有価証券は、しかし価値保存手段としては万全とは言い切れない。有価証券の価値は、それを発行している組織や団体がお金を生み出す能力があるからこそ認められる。逆に言うと、有価証券を発行している組織や団体が経済的に『危ない』とみなされると、有価証券の価値は下落する。

例をあげると、株券を発行している会社の業績が赤字で事業が危ないとなったら、その会社の株価は下落する。国債を発行している国の財政が危ないと思われたら、国債の価値が下落する。

このように、有価証券はお金の代わりとなり得る一方で、有価証券を発行している組織や団体(これを『発行母体』と呼ぶ)が経済的に危ないとなったら(これを経済の言葉では『信用が毀損したら』と言う)その価値が下落する性質を有しており、100%お金の代替となるわけではない。

 

不動産

土地、家、建物は不動産と呼ばれ、これもお金と同様に価値交換と価値保存の手段となる。これらの中では土地の価値が一番高い。

なぜかというと、土地があれば個人がそこに家を建てて住むことができるし、会社が事務所や工場を作ることもできるし、肥えた土地であれば畑や田んぼとして農作物を生産することが出来る。つまり人間と経済活動にとっては絶対必要なものであるからじゃ。加えて、土地自体は自然災害で大きくやられなければ、半永久的にそのまま存在する。つまり、家や建物のように傷んだりしないから、これらより価値があるとみなされるんじゃ。

ただ、不動産がお金の代わりになりうるかというと、そこには問題点がある。それは、不動産はすぐにお金にすることが難しいということじゃ。

例えば、家を売るとしよう。お主も近所に売り家が出ているのを見たことがあろうが、その売り家の看板はすぐに無くなるか? 無くならずいつまでのそのままの事が多いじゃろう? 土地も同じじゃ。お主の住む近くで、売地がそのままになっているのは1つや2つではなかろう?

不動産は相対(あいたい)で取引される。これは売り手と買い手が1対1で顔を突き合わせて取引されるという意味なんじゃが、売る側にとっては、買いたいという人と1人ずつ会って不動産の説明をしてという面倒な作業が必要になる。そして、一生懸命説明させられた挙句に、『このお話は考えさせてもらいます』と言われたらパーじゃ。買う側にしても、自分の気に入る不動産が中々見つけられないことも多い。

不動産というのは一つ一つが全く違った商品といってよく、基本的に万人受けするものではない。また、より取り見取りできるほどの数が売りに出されることもない。したがって、売る時にも買う時にも時間が必要で、そのためにいざという時にお金に変えるのが難しい(これを『換金性に劣る』という)。

また不動産は、人気が出れば高くなるし人気が無ければ安くなる。つまり、価格変動は避けられんということになる。ことに、人口が減少し続ける日本では不動産の価値はずっと下落し続けることが予想される。買う人が少なくなれば、値段が下がるのが道理というものだからじゃ。

このように、不動産もお金を100%代替するものとはなり得ない。

 

商品

お主が挙げておった金は、実は商品に区分される。商品とは、経済活動において生産・流通・交換される物や財のことである。具体的には、金や石油や農産物といったものの他にも、サービスや情報なども含まれる。ただ、ここでは価値保存と価値交換についての議論を行っているので、具体的にお金に引き直して議論ができる前者のみを考慮する。

例えば金などは貨幣として使われてきた歴史があり、換金性も価値保存性も十分じゃ。これぞお金の代替としては完璧に思われるであろう。しかし、金も商品であり、商品であるからには価格変動からは逃れることはできない。

具体的に説明しよう。ワシは社会人になってから30年近くずっと金を買っておる。最近の金の価格は1gあたり4000円台後半じゃが、ワシの金購入の平均価格は1400円程度じゃ。つまり、ワシの金は買値の3倍の価値がある。これは、金が安い時期にまとまった量を買えていたことによる。

『それはすごい、金っていいじゃん!』と思うなかれ。ワシが金を安く変えたということは、金も価格下落を免れないということでもある。実際、ワシが金を1000円台で買っていた頃には金の値段が上がりそうな雰囲気は全くなく、経済誌などでは『金を買っている奴はアフォだ!』という論調が幅を利かせておった。

そんな空気を読まずに金を買い続けたワシは、今のところ金投資で勝利しているわけだが、これはたまたま運が良かっただけと見るべきであろう。

金以外の商品については、金以上に価格変動が激しい。素人が安心して買えるようなものではない。

 

お金が一番なのか?

 

今まで述べたように、お金に代わりうるものとしては有価証券・不動産・商品があるが、いずれも価格変動からは逃れられない。したがって、買値を上回って売りつけて儲けることもできるが、値段が下がって損することもある。

 

だったら、お金のままがいいじゃん!

 

と、お主は思うかの? 確かにお金は価値交換そして価値保存の手段としては最強であるので、別に他のものに代える必要は無いように思える。

しかしながら、お金には

致命的な弱点

がある。それは、インフレに弱い事じゃ。

 

お金はインフレによって価値が毀損される

 

モノの値段は需要と供給によって決まる。

ご主人様(お主にとっては母者じゃ)が、『野菜が高い』だの『魚が安い』だの良く言っていたであろう? これなんぞは需要と供給による値段が決まる例で、需要のある野菜の生産量が少なければ値段が上がるし、大漁になれば供給が大きく需要を上回るので魚の値段が下がる。

 

・・・と説明したうえで、前回の講義の漁師と若者の話を思い出してもらおうかの?

 

あの講義では、若者にお金を貸した漁師の元に、貸した以上のお金が返ってくる仕組みを、利子で説明した。これは、言い換えれば利子によりお金が増えたことになる。

ところで、利子によってお金が増えたらどうなるか?

実は、お金とモノの関係も需要と供給で論じることができるのである。

お金を借りて経済活動を行って、お金に利子を付けて返す。経済活動が順調で経済が成長していれば、利子の分お金がどんどん増える。そうすると、世の中にお金が溢れかえることになる。その結果、モノやサービスと比べてお金の方が多いものであるから、お金の価値が下がる。お金の価値が下がれば、モノやサービスを手に入れるために、より多くのお金が必要になる。これは、先ほどの、野菜や魚の値段の決まり方と同じじゃ。そして、この結果をお金を持っている人の立場からは、『モノやサービスが値上がりした』と見えるのじゃ。

このように、お金の価値の下がった状態をインフレと言う。

 

お主も中学校の時に習ったであろうが、資本主義経済の本質は拡大再生産である。つまり経済は成長し続けるという前提で成り立っており、実際に資本主義は今までのところそのように機能している。

その結果、何が起こるか? 資本主義経済は常に拡大し続けるがために、お金はどんどん増える。その結果、インフレが生じお金の価値は下がり続ける。そして、インフレにより失われたお金の価値は戻ることは無い。

つまり、

お金とは一方通行で価値が下がる代物

なのじゃ。

明治や大正時代の小説をお主も読んだことがあるじゃろう? そこに記された『1円』は今でいうとどのぐらいの価値があるか? たとえば明治30年頃には、初任給が10円以下で熟練工の月給が20円だったという。つまり、当時の1円は今の2万円程度の価値があったということじゃ。

それが、インフレによって円の価値はここまで毀損されてしまっておる。インフレがいかに恐ろしいかよく分かるであろう。

 

『まとめ』らしきもの

 

今回は、お金の代わりとなるものを論じ、お金自体についても考えた。いずれも、価値保存の手段としては問題があることがわかったじゃろうか?

 

しかしながら、価値保存手段としては最も優れたものが、実は今まで説明していたお金の代替品の中にある。それを次回に説明しよう。

 

おそらくは、お主への講義では最重要の回となると思われる。心して聴講すべし。

 

では、またの

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