さて、投資で重要な概念に
ワイドモート
というものがあります。本来は『広い堀』という意味ですが、投資の世界では、
事業領域での競争力が強大であること
を意味します。
例えば、マイクロソフトのOfficeは過去ファイルとの互換性が求められるため、他のソフトで置き換えることが難しく、ワイドモートを有すると理解されます。
他の例としては、アドビシステムズのpdfはファイル管理のフォーマットとしては定番であり、アドビシステムズの名前を知らない人はいても、pdfを知らない人はいないでしょう。これも堅固なワイドモートを持つ商品です。
他にもワイドモートを持つビジネスは色々と存在しますが、ワイドモートを有するビジネスを運営する企業は一般に高収益であり、投資家としてはそうしたワイドモートを持つ企業に長期投資したいところです。
しかしながら、その際に『そのワイドモートは永続的に存在しうるのか否か?』と問いかける必要があります。各企業がしのぎを削って戦っている状況で、永続的なワイドモートを保持するのは並大抵のことではないでしょうが、今回はこの点について語って見たいと思います。
絶対に負けることのないワイドモートを持つ企業というのは存在するのでしょうか?
『絶対不敗』のワイドモートについての考察
絶対不敗のワイドモートを構築するために必要と思われる要件を記載してみましょう。
①その企業が提供するモノやサービスが、消費者にとって絶対必要である。
②その企業が提供するモノやサービスを、他の企業が供給することは著しく困難である。
では、以上の要件を兼ね備えた企業というのはあるのでしょうか? ワイドモートを持つといわれる企業について検討してみましょう。
まず冒頭に述べたマイクロソフトのOfficeですが、確かにビジネスでは絶対欠かすことができない商品です。ですが、他の企業の商品で代用できないかと言うとそうでもありません。ご存じの方も多いと思いますが、金山軟件有限公司という中国企業とのジョイントベンチャーであるKingsoftがOfficeの互換ソフトを売り出しています。私も使っていますが、マイクロソフトのOfficeとの互換性は全く問題なく、しかも価格は格安です。私的な使用については、Officeの必要性は無いと言って良いでしょう。
コカ・コーラはどうでしょうか? 確かに強力なブランドでしょうが、無かったからといって困るような商品ではありません。ペプシ・コーラやその他のソフトドリンクはいっぱいあり、代用品には事欠きません。
ビザの提供する電子決済サービスはどうでしょうか? これも強大なワイドモートを有するビジネスですが、小切手や現金決済も存在しているので、無ければ不便ですが非常に困るというものでもありませんし、代わりにマスターカードやアメックスもあります。
『資源関係は? 鉄道は? アマゾンはワイドモートを持っているぞ?』というコメントには、一国でのみ供給される資源はない、鉄道の代わりにトラック等がある、アマゾンは確かにワイドモートをもっているが他の企業のサービスで代用可能、と回答できます。
このように検討していくと、強大なワイドモートを有する企業はあっても、そのワイドモートが絶対不敗かというと、そうでは無いケースがほとんどのように思われます。
しかしながら、私は絶対不敗のワイドモートを有する企業があると考えております。それは、
上水道および下水道運営企業
です。
上水道および下水道運営ビジネスの有する強固なワイドモート
上水道および下水道ビジネスがいかに鉄壁であるか、以下で検証します。
まず、上水道および下水道ビジネスの必要性を考えてみましょう。言うまでもなく、
人間は水がなければ生きていけません
したがって、上水道ビジネスは人間にとって必要欠くべからざるものです。同時に、
使った水は捨てなければなりません
ですから、下水道ビジネスも絶対必要です。その必要度は、コカ・コーラのそれとは比べるべくもありません。したがって、上記の①を完璧に満たしているとについては、100%ご同意いただけると思います。
次に、上水道および下水道ビジネスの特徴について考えてみましょう。これらのビジネスは
やたらにかさばるもの
を扱っています。考えてみてください。あなたは1日何リットルの水を使用しているでしょうか? 10リットルや20リットルどころではないでしょう。
実際、東京都水道局によりますと、平成27年度の家庭で東京都民1人が1日に使う水の量は
219リットル
にもなります。他の自治体でも似たようなものでしょう。これだけの量を、何万人分あるいは何十万人分、いや何百万人分も送り届けるためのシステムを作り上げるためにどれだけのリソースが必要でしょうか? そしてそのシステムを維持運用するためにどれだけのリソースとノウハウが必要でしょうか?
そう考えれば後発企業の新規参入の余地はあり得ず、したがって上記の②の条件も完璧に満たしていると判断されます。
絶対不敗のワイドモートを持つ水道企業の現状は・・・
絶対不敗のワイドモートを持つビジネスとしては、上水道および下水道事業がそれに該当することを説明してきました。
そう言えば、2018年4月11日付けの記事『ご長寿倶楽部! 100年以上(それどころか200年以上も!)配当を払い続けている会社のお話(米国編)』に記載したように、米国で200年以上配当を支払い続けている会社は1社しかなく、それは水道会社のYORWです。こんなところにも、水道会社の絶対不敗のワイドモートが現れているのですね。
・・・と述べたところで、世界の水道事業の趨勢を調べると、実は上手くいっていないことが分かります。その理由を以下述べますが、大前提として水道事業はその重要性から公営からスタートしていることは理解しておいてください。
(1) 民営化された場合に、企業は利益を上げる必要があるので、運営コストを利用者に転嫁する。そしてほとんどの場合、水道料金の大幅値上げにつながっている。
(2) コスト削減のために合理化が行われる。その結果、サービスが低下する事例が頻発した。
以上の結果、水道の再公営化が世界各地で進んでいます。公営水道は利益を求めないため、低価格で水を供給できる点が、再評価されつつあるということでしょうね。
『まとめ』らしきもの
竜頭蛇尾のような記事になってしまいましたが・・・
絶対不敗のワイドモートを持つビジネスといえども、そのビジネスの社会性というファクターには敵わないということでしょうね。
絶対不敗で代替が効かないがゆえに、ということでもあるのでしょう。
でわ。
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