武田のシャイアー買収に垣間見える製薬業界の憂鬱②

2018年5月11日付けの記事『武田のシャイアー買収に垣間見える製薬業界の憂鬱①』のつづきです。

 

製薬業界を取り巻く環境変化

 

昔は、医薬品開発のタネがいっぱい転がっていました。例えば、私が業界に入った30年位前には、

抗生物質、降圧剤、高脂血症治療薬、高コレステロール血症治療薬、アレルギー疾患治療薬、抗炎症剤、呼吸器疾患治療剤、胃および十二指腸潰瘍治療剤

等々、多くの疾患領域があり、製薬各社はしのぎを削って開発を行っていたものです。ところが、今や上記の薬を開発しようという会社は殆どありません。

 

例えば、高コレステロール血症治療薬を例にとってみましょう。この領域には、ブロック・バスター中のブロック・バスターである

リピトール

があり、

なんと最大年商1兆円超!

だった時期がありました。1兆円ですよ、1兆円!(正確にはピーク時の最大年商130億ドルです) それが、特許切れにより後発品が大挙して参入してきた結果、

一日あたりの薬価30円

程度というチョー安値で売られるようになっています。リピトールは1兆円以上もの売り上げを叩き出したことからもわかるように、非常に優れた薬です。それがたった30円で売られているとなれば、製薬会社がわざわざ巨額な開発費を投入して、新たに高コレステロール血症治療薬を開発しようとするインセンティブは、雲霧参照してしまいます。

 

こういった状況は、あらゆる疾患領域で起こっており、今や製薬メーカーにとって残された『ラスト・リゾート』は、

脳神経領域・ガン領域・自己免疫疾患領域

に絞られています。

 

しかしながら、候補の一つである脳神経領域の薬の開発は非常に難しい。なぜなら、人間の持つ非常に高度な脳神経機能とその損傷過程を動物モデルで再現することは不可能であり、したがって薬の評価を適切に行う方法が実質存在せず、ゆえにほとんど五里霧中の中で開発を進める必要があるからです。実際、開発最近ファイザーが脳神経領域からの撤退を発表したように、脳神経領域も最後の聖域ではなくなりつつあります。そういえば、リリーもアルツハイマー治療薬の治験で失敗しましたよね?

 

一方、ガン領域はどうでしょうか? ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、ガン領域では、その治療体系に革命がおきつつあります。具体的には、免疫チェックポイント剤のように、ヒトの免疫機能を利用してガンを叩こうとする潮流や、ガンの微小環境に介入して治療成績を向上させようとする動きが活発化しています。そして、おそらくは、そう遠くない将来に、ガンは『場合によっては、たちの悪い慢性疾患』となり、その治療法も出尽くして、新たに巨額の費用を投入して治療法を開発しても割の合わなくなる疾患領域になるでしょう。

 

自己免疫疾患にしても、最近は優れたバイオ医薬品が陸続と市場に投入されて効果を挙げています。いずれ、市場飽和とバイオ医薬品のコモディティ化に伴う収益低下に、業界は悩まされることになると思います。

 

そして、例えるならば、いずれ製薬メーカーは、

 

掘り返せるところはすっかり掘り返してしまって途方に暮れる鉱夫

 

みたいな状態に陥ってしまうでしょう。

 

『まとめ』らしきもの

 

実に荒くツッコミどころ満載の考察ではあることは認めますが、全体の流れとしては、開発すべき治療領域が狭まりつつある製薬業界は、いずれ苦境に陥ることは必定と思います。

 

そもそも製薬業界は不条理な前提で成り立っています。それは、

 

製薬業界は、自分の存在意義を否定するために存在している

 

ということです。分かりやすく言うと、目的である疾病の治療手段を提供できた段階で、製薬企業は

 

お払い箱

 

になってしまうということですね。

 

なんと因果な業界でしょう?

 

さて、今回のネタについては、番外編でもう少しつらつらと語りたいと思います。

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