さて、読者様から『下落相場ではどんな株式指標で判断すれば良いの?』というご質問をいただいたので、今回の記事ではそのご質問に対して私見を述べたいと思います。ご質問を頂いたのは
かもおさん
です。いらっしゃい!
かもおさんは、2018年12月10日付けの記事『配当金の増額のためにポートフォリオを再編中!』をお読みになり、それへのコメントとして以下のご質問を頂きました。
下落相場でどのような株式指標に注目すれば良いのか?
こんばんは。本格的な下落相場がやってきた場合、何を見て投資すべきなのでしょうか?
低PERぐらいしか思いつかないです。
素人にはわからないので2019年は様子見ながら数ヶ月に1回みたいなペースを決めて投資するって決め打ちぐらいしか出来ないかなーと今のところ思っています。
かもおさん、ご質問ありがとうございます。
文面より、下落相場で個別株投資を行う際の注意点を質問されたと理解しましたので、その線で回答致します。
下落市場でPERを見るとき注意点
まず、下落相場においてPERは
余り役に立たない可能性がある指標
と理解すべきです。
一例を挙げると、鉄鋼・化学・機械等のいわゆる循環株では、景気悪化時に赤字を計上する会社が多いですが、赤字の会社はPERで評価できるでしょうか? できませんよね? PERは株価を利益で割って算出しますから、利益が赤字の場合は算出不能だからです。
実際、リーマン・ショックの時は多くの会社が赤字連発のためPERが出せずに、したがって株価を評価する指標がなくなって市場が混乱しました。
また、株価下落時のPERは、異常値を示すことも多いです。これまたリーマン・ショック時の例を挙げると、4半期ごとに20%以上の成長を遂げていたような株でも
PERが5~6程度
で取引されていました。これは明らかに異常値ですよね? ですが、市場が混乱する時には、こんなことが往々にして起きるのです。信じられないかもしれませんが、リーマン・ショック後から安倍首相登場までの期間の日本株については
PERが10を越えると割高だ
とまじで考えられていたんですよ! 当時の様子を記した株式ブログをお読みになれば、私が言っていることは本当であることがお分かりいただけると思います。
(ちなみに、リーマン・ショック時に上記のような銘柄を買った投資家さんの多くは、その後の株価上昇で億り人に昇格されています・・・)
PERは、『株価を利益で割る』という明快な指標ではあるのですが、平常時には機能するものの上記のように市場混乱時には使いづらい指標ではあります。
下落市場で使える株式指標
ところで、下落市場が始まると株式投資家はどう行動するでしょうか?
それまで、
PERが100を超えているけど〇〇はチョーイケてる高成長株だから全然高くないんだぜ!
などと嘯いていた人が急に左右をきょろきょろしだして、必ずこう叫ぶんです。
Show me the money !
・・・ちょっと例えがイケてないかもしれませんが、市場下落時にはPERといった期待(あるいは願望)をベースとした指標から、
実在価値
を基準とした指標へと、投資家は舵を切る傾向にあります。具体的に言うならば、
PBRや配当利回り
を重視するようになるということですね。
これらの指標は、その時の状況によってフラフラする株価ではなく
実在するお金(あるいはお金に替えられるもの)
を基準にしているので堅牢です。
例えば、現金や現金等価あるいは不動産等をしこたま溜め込んでいる企業のPBRが0.5だったとしたら、この会社の株を買っておけば損することはあり得ませんね。なぜなら、この会社の1株当たり価値は株価の2倍なわけですから、経営陣がアホなことをして社業を傾かせたり資金を無駄にしない限りは、株価以上の価値を株主は保有できるからです。
配当利回りの場合はどうでしょうか? 安定して配当を出し続けている会社の株価が市場下落につられて値下がって、仮に配当利回りが5%とか6%になったら、文句なしに買いに行けますよね?
これらの例が示すように、PBRや配当利回りは実在するお金やその等価物あるいは具体的な資産に依拠しているため、株価下落によるPBR低下や配当利回り向上はダイレクトに1株あたりの実在価値向上に結び付きます。したがって、そういった銘柄の株価は
大崩れせず底値が固い
という特徴があります。ですから、こうした銘柄が下落相場で人気がでるのです。
以上までのまとめとして、
① PERは市場環境に左右され、特に下落相場では機能しない場合もある株式指標である
② PBRや配当利回りは下落相場で使える株式指標である
と要約できると思います。
以上で、かもおさんの質問への一応の回答になったかと思うのですが、折角ですので株式指標についてもう少し考えてみたいと思います。
あらゆる相場環境で使える万能指標がある!
実は、どんな相場環境においても使える万能指標があります(と私は思っています)。それは、
営業キャッシュフローマージン
です。これは企業の営業キャッシュフローを売り上げで割ったものです。
企業の利益は会計処理の方法について企業の裁量が認められているので、数値が変わる(あるいは数値を恣意的に変える)ことがあり得ます。
一方、キャッシュフローは会計処理でごまかしが効きにくいために、企業の真の収益性を図る指標として有用です。またキャッシュフローには3種類あるのですが、そのうち企業の稼ぐ力を示すのは営業キャッシュフローです。
したがって、売り上げと営業キャッシュフローから算出される営業キャッシュフローマージンは、その企業の収益性を判断するのに適した指標です。そして、目安として営業キャッシュフローマージンが15%程度以上ある企業は、競争力がある優良企業と言えます。
例えば先ほどの例のように、下落市場でPERが5を付けた銘柄があるとしましょう。この企業の営業キャッシュフローマージンが仮に何年も安定して15%以上を叩き出しているのであれば、この企業の株を
即買い!
して全く問題ありません。安定してキャッシュフローを出し続けられる企業の株であれば、平常時にはPERが確実に10から15を超えるレベルで評価されますので、PERが5でその会社の株を買えるというのはチョーお得だからです。
このように、使いにくかったPERも営業キャッシュフローマージンと絡めて使えば有効な指標となります。
営業キャッシュフローマージンが安定している企業をまず選んで、そこに他の投資指標を絡めて判断していけば、株でやられる可能性をかなり低くできるのであり、
まずは営業キャッシュフローありき!
で投資戦略を組み立てていくのが良いと私は考えています。どんな市場環境においても。
『まとめ』らしきもの
さて、以前いただいたコメントでは、かもおさんは『つみたてNISAで投資デビュー、キャピタル狙いは自分に合わないので米国配当株投資を少し始めたところ』ということでしたね。
であれば、米国であれば営業キャッシュフローマージンが15%どころか20%を越えている株がいくつもありますので、そうした中からディフェンシブな株を中心に20銘柄程度以上に分散投資されてはいかがでしょうか? もちろん配当は再投資一択で。長い期間をかければ確実に勝てるはずです。
あるいは、ETFでもいいと思います。個人的にはETFは選好しないのですが、資本主義の成長に応じて株式価値も成長していくことは確実であり、その成長を取り込むためにはETFは最適な投資対象として誰にもお勧めできると思います。こちらも何も考えずに『長期保有+再投資および追加投資』で良いでしょう。ただし、時価総額が出来るだけ大きいETFを選好されるべきかと。
また、コメントでおっしゃっているように期間を分けて決め打ちで投資していくのが正解と思います。
私の場合、リーマン・ショックのイメージが頭にこびりついていて『下落したら買いに入る。それまでは我慢する。』という戦略にこだわったために、2012年から2013年辺りのまだまだ安値だった頃に買いに行けませんでした。つまり、機会損失となったわけですね。
そんなことにならないように、ご自身で決めた期間で投資を次々と行うのが良いと思われます。
以上、長々と書いてきましたが、参考になりましたでしょうか? またよろしければコメントなり質問なりをお願い致します。
かもおさんの投資が成功されることをお祈りしております。
P.S.
そういえば、ご質問者No.1のみやみやさんはファイナンシャルプランナーの先生に相談したのかな?
みやみやさん、その後についてよろしければ教えてくださいね。
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非常に丁寧な回答記事を書いていただきありがとうございます。しかも1回目のコメントまで覚えていただいていてありがたいです。
とてもわかりやすく、また今後の投資意欲が湧くような内容でなんだか読後スッキリとした気分です。
子供たちが独立するぐらいまでの長期的な視点で仕事と投資頑張っていきたいと思います!
今後もブログの更新楽しみにしています。
かもおさん
いらっしゃい!
ポジティブなコメントをありがとうございました。記事を書いた意味があったというものです。
私と違って、かもおさんはまだお若いようですから、時間をじっくりと使えば大きな資産を築くことも十分可能と思われます。
かもおさんのご健闘をお祈りしております。