5月8日に武田薬品がシャイアーを買収することで合意しました。
さて、投資ブログならば、ここで
『武田株1株あたり』うんたら、『2019年上期に完了』かんたら、『引き続き東証とNY証券取引所』うんぬん
と、述べるべきなのでしょうが、当ブログでは別の観点から、この出来事を論じたいと思います。
シャイアーとはどんな会社か?
まずは、シャイアーの生い立ちから振り返ってみましょう。
チョー簡単にまとめると、1986年に設立されたシャイアーは、1990年代に入ってからは、買収を繰り返して大きくなってきました。言い換えると、自社開発ではなく他社の開発品を取り込んで、それを成長のドライバーとしてきたということです。
シャイアーが主たる治療対象とするのは希少疾患です。希少疾患とは、文字通り患者数が少ない疾患です。患者数が少ないということは、身も蓋もない表現をすると、
売上げにつながらない
ということで、製薬大手としては中々手を出しにくい領域です。
しかしながら、少数でも患者がいるとなれば、国は保険政策としてそうした患者の救済のために手を打ちます。それが
オーファン指定
という制度です(ここでは、日本の制度について代表として述べることとしますが、他の各国にも同様な制度があります)。これはなにかというと、希少疾患の治療薬が見事開発された場合には、
採算度外視
で、国が保険による治療機会を確保してあげましょう、という仕組みです。この制度のおかげで、
たった数人しか患者がいない病気
でも、治療薬が開発されるようになりました。
さて、希少疾患治療薬がオーファン指定された場合は、それを開発した製薬企業が
十分元がとれるような(チョー)高薬価
が付きます。そうしないと、オーファン・ドラッグ(希少疾患の治療薬をこう呼びます)を開発しようという企業は出てきませんからね。そして、オーファン・ドラッグを開発しようという会社は、ほぼ決まって
中小べンチャー
です。上でも述べたように、大手ではオーファン・ドラッグを開発できたとしても、売り上げに大きくは貢献しないからです。
製薬業界では
ブロック・バスター
という言葉が良く聞かれます。これは、10億ドル以上の売り上げを叩き出す薬を指します。そして、世界の大手企業は、そのバカでかい図体を維持するために、ブロック・バスターを何品も抱える必要があります。そんな大手が、ブロック・バスターよりも一桁あるいは二桁も売り上げの少ないオーファン・ドラッグの一からの開発に手を出せるものではないことは、理解していただけると思います。
シャイアーの賢明なところは、そうした大手が手をだせないけれども、しっかりとした利益を叩き出せるオーファン・ドラッグを戦略的に買収しつづけてきたことです。今までの説明で理解されると思いますが、
①オーファン・ドラッグは製薬大手が手を出しにくい
②一方で、シャイアーにはオーファン・ドラッグを扱った経験から蓄積された、他社が簡単に真似できないノウハウがある
この、①と②のために、
ニッチ・マーケットで参入障壁を築いてきた
のがシャイアーといえるでしょう。
武田によるシャイアーの買収が意味するもの
さて、今回の買収が無事成立したら、武田はシャイアーのポートフォリオを手にすることができるでしょう。でも、それは言い換えると、自社で開発するのではなく、他社が開発した薬を買ってきてそれで売り上げを出すという、いわば
投資会社もどき
のビジネスモデルを武田が採用したということです。もちろん、これは武田だけの話ではなく、世界の製薬大手はとっくの昔にその流れに手を染めていて、何も目新しいものではありません。私がここで言いたいのは、
希少疾患が『投資会社もどき』の投資対象になってきたのか・・・
という、『ついにここまできたのか・・・』という製薬業界を取り巻く状況変化です。
長くなりそうなので今回はここまでとして、次の投稿に続けます。
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